衛星データを活用した温室効果ガス(GHG)の排出量推定技術については、日本の温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)がその先駆的な役割を果たしています。GOSATは、世界中の温室効果ガスの濃度および温室効果ガス排出源を把握し、国別報告の透明性を高めることに貢献できます。環境省は、この衛星技術を活用し、世界各国の気候変動対策を支援する取り組みを進めています。
2025年2月3日から4日にかけて、東京にて「Transparency Through Greenhouse gases Observing SATellite (GOSAT) For Biennial Transparency Reports (BTR)」と題し、GHG排出量推定のための衛星技術とそれを活用した中央アジア各国での二酸化炭素排出量評価と情報公開(透明性)について、中央アジア各国の能力強化に向けた協力に関する国際会合が開催されました。OECCは、COP29でのGOSATサイドイベント支援に引き続き、事務局として会合開催支援を行いました。
本会合では温室効果ガス排出量推計のためのGOSATとその衛星データの活用を通して、いかに国家レベルの二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量を把握し、国家の排出量を報告するBTR作成に活かすかについて、日本をはじめ中央アジア各国やアゼルバイジャン、モンゴルなどから温室効果ガスインベントリに関わる政府関係者や研究者、また国際機関からはIPCC-TFI(気候変動に関する政府間パネル・タスクフォースインベントリー)の専門家など約50名が一同に介し、情報共有と討議を行いました。特に、各国の温室効果ガスインベントリの現状や課題、GOSATデータを用いた排出量計測による推計精度向上の可能性などについて、実務的なレベルでの活発な議論が交わされました。
会合の背景-IPCCガイドラインに基づく透明性向上の取り組み
パリ協定の枠組みの下での透明性向上を目指す取り組みとして、特に温室効果ガスの排出量について、各国がどのように報告を行うか、またその透明性をどのように確保するかが焦点となっています。日本は、GOSATのデータを利用した排出量推定方法の国際標準化を提案しており、各国の温室効果ガス排出量の報告に対する信頼性を高めるための基準策定を目指しています。特に、アゼルバイジャンで開催されたCOP29を契機に、各国は共通の方法論に基づいた排出量推定の重要性を認識し、衛星データの活用に向けた議論を深めました(「COP29におけるGOSATサイドイベント支援」の活動報告はこちら)
COP29から3か月後に開催された本会合では、GOSATデータを用いた排出量推計技術の確立を目指し、日本をはじめとする参加各国が協力して研究を進めていくこと、またIPCCガイドラインへの反映に向けた今後の取組について議論されました。
衛星観測データを用いたハイブリッドシステムについてのプレゼンテーション(中央大学)
初日のセッションでは、現在のGHGインベントリについて議論され、その後質疑応答が行われました。午後のセッションでは、従来の統計データを用いたボトムアップ手法と、衛星観測データを用いたトップダウン手法の長所を生かしたCO2排出量の推定手法いわゆるハイブリッドシステムを含むGHGインベントリの方法論に関するパネルディスカッションが行われました。このディスカッションでは、各国におけるデータ管理や影響評価スキルを持つ人的資源の不足、集約された統合データベースの欠如、IPCCガイドラインとの土地カテゴリーの不一致、および国内係数の欠如など、データを正確に保つことの難しさについて議論されました。
2日目の午前のセッションでは、GOSATを用いた温室効果ガスの排出および吸収量を推定する方法がどのように適用されているかについてモンゴルの事例が紹介されました。午後のセッションでは、衛星データを用いた推定手法のIPCCガイドラインへの反映に関する提案についてパネルディスカッションが行われました。

GOSATを用いた国別排出量推定の成功事例
モンゴルでは、GOSATデータを使用して放牧地における温室効果ガスの排出量を推定し、放牧管理の改善に役立てている他、測定結果をBURに掲載することで国際的にデータを公表しています。現在、多くの中央アジア諸国では、ボトムアップ方式によってデータを集計し、温室効果ガス排出量を推計していますが、モンゴル同様にGOSATを活用することで、排出量推計の精度を向上させ、自国の温室効果ガス削減の進捗状況をリアルタイムで監視し、より効果的な対策を講じることが可能になると期待されます。特に、モンゴルや中央アジアのように、年間を通じて比較的雲が少ない広大な地域では、衛星技術を用いた温室効果ガスの監視システムの導入による効果が期待されます。各国からは、今後のGOSAT技術を活用したBTR作成に向けた技術の水平展開や、それに伴う環境協力に関する要望が多数挙げられました。
(図) GOSATが2009年~2020年にかけて宇宙から観測した全球の二酸化炭素濃度
画像出展元:「JAXA『サテナビ』」
関連リンク一覧
〇COP29におけるGOSATサイドイベント支援(OECC活動報告)
GOSATに関する中央大学研究者による論文URLも掲載されています。
COP29におけるGOSATサイドイベント支援
〇温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズによる地球観測(環境省)
GOSATシリーズによる成果、また現在開発中のGOSAT-GWについて掲載されています。
温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズによる地球観測