OECC技術・広報部会では、若手職員の育成と会員間のネットワーク強化を目的に、毎年海外環境調査ミッションを実施しています。令和7年度は、アジアにおける気候変動対策の先進事例を学ぶため、タイ・バンコクを訪問しました。5月25日から31日の1週間にわたり、政府機関、国際機関、研究機関、都市行政、さらには現地の環境関連施設を訪れ、活発な意見交換と現場視察を行いました。
今回のミッションには、OECC会員企業や研究者、事務局職員を含む約12名が参加しました。各訪問先では、日本との具体的な連携可能性や、今後の国際協力のあり方について多角的に議論し、OECCとしての活動の裾野を広げる有意義な機会となりました。
本稿は後半パートのレポートです。
<概要スケジュール>
| 05/25(日) |
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| 05/26(月) |
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| 05/27(火) |
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| 05/28(水) |
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| 05/29(木) |
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| 05/30(金) |
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| 05/31(土) |
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UNEPアジア太平洋事務所(UNEP-ROAP)
バンコクに本部を置くUNEPアジア太平洋地域事務所(ROAP)は、同地域における環境政策形成の中核機関として、各国政府・国際機関・市民社会と連携し、幅広い分野で活動しています。今回の訪問では、世界的に注目が高まるプラスチック汚染条約(INC交渉)の最新動向について説明を受けました。
担当者からは、過去20年でプラスチック廃棄物量が倍増していること、世界全体のリサイクル率が約9%にとどまること、そしてアジアが最大の生産・排出地域であることが強調されました。焼却やリサイクルのみに依存せず、製品設計段階から見直すライフサイクル全体での対策が必要だというUNEP方針が示されました。
議論では、「生産量削減」をめぐる国際的な対立や、島嶼国に適した分散型・小規模処理モデルの必要性、日本の自治体による小規模リサイクル・資源回収の応用可能性などを検討。民間企業の国連案件への参画については、IGESやGECなど公的色の強い機関を介した関与の可能性が紹介されました。

JICAタイ事務所
日本のODAの長年の支援実績と近年の戦略転換について説明を受けました。タイは「ODA卒業国」に近づいており、従来型インフラ支援から、制度支援・技術協力・民間投資を組み合わせた「共創型協力(co-creation)」へ重点が移行しています。
具体例として、①PM2.5汚染構造解析(円借款)②海洋プラスチック挙動解析(SATREPS)③ゴム種子由来バイオマス利用研究などが紹介されました。日本企業の高性能だが高価という特性と、現地の安価で扱いやすい技術の需要とのギャップを埋めるため、製品単体ではなく修理・保守まで含むサービスパッケージでの提供や、現地で運用できる人材育成の重要性が強調されました。さらに、官民連携によるEVバス導入、省エネビル等のハイブリッド投資事例も共有されました。

タイ温室効果ガス管理機構(TGO)
TGOは国内のGHG削減を推進するパブリックオーガニゼーションで、MRV制度の運用、カーボンフットプリント認証、クレジット制度設計等を担ってます。訪問では、国内向けクレジット「T-VER」と、国際基準に準拠した「Premium T-VER」が紹介され、ステークホルダー協議、SDGsへの貢献、追加性などの厳格な要件を満たす必要があるとのことでした。今後はICAOのCORSIAスキームでの活用も視野に入れています。
また「Climate Action Academy」の研修活動が紹介され、これまで6,000名以上が受講、5,000名が修了証を取得した実績が示されました。Premium T-VERとJCMの整合性、中小企業の参入障壁、衛星観測やAIによるMRVコスト削減の可能性など、実務に直結するな質疑も交わされました。

IDEA R&D Center Bangkok
OECC部会員のいであ株式会社(IDEA Consultants)がアジア工科大学(AIT)内に設置する研究センターを訪問しました。同センターは学術と産業のパートナーシップにより、アジアの大気・水質・廃棄物分野の調査・研究を支えています。
AIT准教授から、PM2.5汚染構造解析や地域別排出源特定のプロジェクト等が紹介され、日本の計測技術を活用したモニタリング成果が政策提言にも反映されていることが示されました。センターには各種測定・分析装置が整備され、学生は設計から分析まで一連のプロセスを学習。2023年開設のMercury Labでは水銀汚染分析を専門に実施しており、日本の民間の研究・分析能力が地域の政策形成に貢献している実例を確認できました。

まとめ
本ミッション後半では、国際機関から現地研究機関、日本企業拠点まで幅広く訪問し、プラスチック汚染条約交渉の最前線、タイのクレジット制度の発展、民間技術の現地展開など、OECC会員の実務に直結する示唆を数多く得ました。率直な議論と新しいネットワークは、OECCとしての協力可能性をさらに広げるものです。今後も国内外の知見を結び、持続可能な社会の実現に向けて活動を展開していきます。
(本レポートは後半編のまとめです。前半編の詳細は「前半レポート」をご覧ください。)
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