2025.11.19

インドネシアにおけるマングローブ林再生によるカーボンクレジット事業の視察

OECCは、マングローブ植林のカーボンクレジット事業化に関するコンサルティング業務(OECC事業紹介「マングローブ林の再生・保全の支援 」)を手がけています。その一環として、インドネシアでマングローブ林再生活動をボランタリー・カーボンクレジット事業に登録し、クレジット発行の経験もある現地NGO(YAGASU)を訪問し、マングローブのモニタリング手法やインドネシアにおけるブルーカーボンを取り巻く現状について、ヒヤリングを行いました。

OECCとYAGASUのかかわり

OECCは二国間クレジット制度(JCM)の案件形成等を通じて長年インドネシアで築いてきたネットワークを介して、「YAGASU (Yayasan Gajah Sumatera:スマトラゾウ財団)」のことを知り、2023年から日常的にコミュニケーションをとっています。2025年11月には、2024年に引き続いて2回目の現地視察を行い、YAGASUが運営するマングローブの育苗場(写真)や、マングローブ林におけるモニタリング手法のデモンストレーション(写真)等を見学してきました。

モニタリング準備中
マングローブのモニタリングを準備中のYAGASUスタッフ

マングローブの育苗場
YAGASUがローカルコミュニティと運営しているマングローブの育苗場

インドネシアでマングローブ再生に取り組むローカルNGO「YAGASU」

YAGASUは2001年にインドネシア人のBambang Suprayogi氏によって設立されたローカルNGOで、当初はスマトラ島で野生のアジアゾウ(スマトラゾウ)の保全活動を行っていました。しかし2004年のスマトラ沖地震を契機に、津波によって破壊されたスマトラ島沿岸のマングローブ林の再生事業に取り組むようになりました。現在では、YAGASUはスマトラ島やジャワ島を中心に、インドネシア各地のローカルコミュニティや地方自治体と協力してマングローブ林再生事業やアグロフォレストリー事業を精力的に実施しています。

YAGASU創設者のBambang氏とスマトラゾウ
YAGASU創設者のBambang氏とスマトラゾウ(YAGASU提供)

マングローブ植林カーボンクレジット事業の先駆者「YAGASU」

YAGASUはマングローブの再生・保全活動をカーボンクレジット事業化に関して、インドネシアで最も豊富な実績と知見を有する組織です。2015年にはインドネシアで初めて、マングローブ再生事業をボランタリー・カーボンクレジットの大手認証プラットフォームVerraに登録し、10年間でおよそ40万CO2トンのクレジットを発行しています(Verified Carbon Standard: Project 1493 )。

YAGASUは、マングローブの再生事業をカーボンクレジット事業化することにあたり、海外の企業等を投資家として呼び込んで再生事業に必要な資金を獲得し、創出したカーボンクレジットは投資した企業に配分しています。一方、ローカルコミュニティには事業を通じて雇用の創出や生計の向上が図られており、両者が利益を得られる仕組みを作っています。例えば、カーボンクレジット事業を実施する地域では、マングローブの植林やモニタリングの為に現地の人々を雇用し、マングローブから染料や食品等の製品を開発し、エコツリーリズム事業等を支援しています(Bambang氏のインタビュー記事:英語 )。

バティック
YAGASUがOECCの為に作ってくれた、マングローブからとった染料を使って染められたバティック(インドネシアの伝統的なろうけつ染め)

カーボンクレジット市場が開放されたインドネシア

インドネシアでは2025年10月に発令された大統領令「炭素経済価値手法の実施と国家温室効果ガス排出規制に関する2025年大統領規則第110号(Peraturan Presiden Republik Indonesia No 110 Tahun 2025 “tentang Penyelenggaraan Instrumen Nilai Ekonomi Karbon dan Pengendalian Emisi Gas Rumah Kaca Nasional”)」で、NDC*非関連クレジット(NDC-unlinked credits)については、国内(onshore)・国外(offshore)ともに自由な取引が可能となりました。Verraなどの国際認証のボランタリー・カーボンクレジットはインドネシア国内でも使用可能とされる方向で、IDXCarbon(インドネシア証券取引所の炭素市場)を通じた取引も活性すると予想されています。

*NDC: 「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)」とは、気候変動枠組条約(UNFCCC)パリ協定において、各国が自ら決定し提出する温室効果ガスの排出削減・適応策の目標。 詳細:IGES「国が決定する貢献(NDC)について

価値の高いマングローブ植林の除去系クレジット

マングローブ再生(植林)事業から創出されるクレジットはカーボンクレジット市場で一般的な「削減(Reduction:CO2排出削減)」ではなく希少な「除去(Removal:CO2吸収)」系クレジットに分類されます。またCO2だけでなく地域住民の生計向上や生物多様性の向上などの相乗効果(シナジー)が大きく、高品質なクレジットとして人気があります。例えば、世界銀行が発行しているレポート「the World Bank’s State and Trends of Carbon Pricing 2025 report 」では、2025年第一四半期では、森林系除去系クレジットの価格は15.5USドル/CO2トンに対して再生可能エネルギーの削減系クレジットの価格は1 USドル/CO2トンと報告されており、マングローブ植林クレジットを含む森林分野の除去クレジットの価格は上昇傾向にあります。

今後の取り組み

インドネシア国内での炭素市場に関する法制度が整ってきたことから、YAGASUは今後も積極的にマングローブ再生によるカーボンクレジット事業に取り組んでいくとのことで、現在は国内外からパートナーや出資者を受け入れています。また、マングローブ再生とカーボンクレジット事業化に関する豊富な経験や知識を東南アジアの域内にも普及させようと、他国でのトレーニング等にも積極的に取り組んでいます。

OECCは今後も、YAGASUと協力しながらインドネシアおよび東南アジアでのマングローブ再生事業やカーボンクレジット事業化の支援に取り組む予定です。

YAGASUスタッフの説明を聞くOECC職員
YAGASUスタッフの説明を聞くトーマス・プロジェクト副リーダー(OECC) 2024年10月撮影

関連リンク

YAGASUの公式ウェブサイト(英語)

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